アキコさんのイナギ

7世代先をみつめる農コーディネーター 

   「改めまして、『農コーディネーター』のタキザワです」と屈託なく笑うアキコさん。

『パーソナルスタイリスト』という肩書きの入った名刺を遠慮がちに差し出してきた2年前とは丸で別人のように堂々として見えた。

   同じ地域で働くママとして共に励ましあう仲間のアキコさんは、この2年間でわたしよりずっと深くしっかりと地域に”根っこ”を張っていた。




土にまみれての仕事


   「今朝も寒いね。霜は大丈夫?」

農家さんにそんな言葉をかけながら早朝の畑へ入る。自分の足で霜柱が立つ土を踏み閉め、自分の手で冷たい土からほうれん草の株を掘り出す。

   ーーー今日は良いほうれん草が採れた。隣の大根畑は大豊作だな。大量の大根も無駄にしないようにさばかないと。

手が切れるほどの冷水でほうれん草の泥を落としながら、アキコさんはすばやく頭の中で計算をする。収穫が終わるとすぐ心当たりのあるお客さんへメール。

「霜にあたって甘く育ったほうれん草採れました。今年は大根が豊作です。採れすぎてしまうので良かったらほうれん草と一緒に買ってください」

何の誤魔化しもない率直なメール。けれど、ほとんどのお客さんが畑の様子を察して注文を入れてくれるそうだ。

   毎朝個人農家さんの畑を回り農家さんと一緒に畑仕事しながら収穫、注文、仕入れ、仕分け、出荷、そして効率的な作付け計画を立てることが『農コーディネーター』としてのアキコさんの仕事だ。

   土にまみれての仕事は『ファッション』とはおよそ接点がない。

「何故ファッションから農業へ転業をしたの?」単純なわたしの質問にアキコさんはさっぱりと答えた。

「農もファッションもわたしの中では”根っこ”が同じなんです」




アキコさんの”根っこ”

  

   元々外資系のアパレル企業で販売を担当していたアキコさん。ファッションが大好きで出産後も子育てしながら出来る『パーソナルスタイリスト』の資格を取りフリーランスで活動していた。様々なタイプのお客様に対応するうちアキコさんはあることに気付いた。

   ーーーファッションのトレンドは移ろいやすいけど、その人に似合う色やベーシックなスタイルは変わらない。ーーー 

   それ以来、生産と消費のサイクルに流されるのではなく、その人らしい”循環”するファッション提案を心がけてきた。洋服の素材にもこだわるようになった。人の手で丁寧に作られ社会的に意義があるものを、と厳選するうち『エシカル』という考え方にも出会い、少しずつ自分の軸を固めていったいう。

   「『”循環する社会”を作りたい』。突き詰めていくうちにわたしの”根っこ”が見つかったんです。ファッションも農業もわたしにとっては”方法”なんです」。


「循環する社会」のための農業


   アキコさんが生まれ育った稲城市は東京で唯一里山を持つ緑豊かな地域だ。畑や農家がとても身近にある環境は子どもの頃から変わらず続いている。しかし、ここ数年は速いスピードで開発が進み山が削られ畑がなくなり、稲城の景色は大きく様変わりしていた。

   ーーー畑がなくなれば自力で循環できない地域になってしまう。残っている畑を守りたい」

その想いだけでアキコさんは地域の畑を回り出したという。

   アキコさんが野菜を仕入れる農家さんはすべて「個人農家」だ。親から相続した土地があるから自家消費用として野菜を作っているという定年世代の普通のおじさんおばさんである。開発の波に乗って田畑を売る農家が多い中、アキコさんの契約農家さんは親からの土地を細々と自分で繋いでいこうとしている。

「絶対に守らなきゃ、という強い気持ちではなく、ただ、先祖代々守ってきた土地を自分の代で易々とは手放せないんです」

アキコさんはそう農家さんの本音を語る。売れば生活がずっと楽になることは分かっている。農家さんは皆「売る」か「売らない」か、拮抗する思いを抱えながら”辛抱”しているのだとアキコさんは言う。



大事なことは『誰に』売るか

   

   ”辛抱”するためには”理由”がないといけない。畑の野菜を楽しみにしているお客さんが沢山いればそれは一つの理由になる、とアキコさんは考えている。

   畑の野菜はもちろん無農薬農法だ。こだわりがあるわけはなく、自家消費の野菜に農薬なんて面倒だからやらないだけなのだ。虫食いでも自分のうちで食べる分には問題ない。出来なかったら諦めればいいし出来すぎたら捨てればいい。

そのような農家さんの”自分ちの野菜”を市場に並べてみれば『自然農法で作られた無農薬野菜』となる。喉から手が出るほど欲しいという買い手は必ずいる。

とはいえ、「いびつで虫食いだらけの野菜で商売が成立するんだろうか」と、初めは恐る恐るだったと言う。しかし、ほとんどのお客さんはとても理解があり協力的だった。畑に誘うと早朝にも関わらず喜んで来てくれる人も多かった。

   「綺麗な野菜が欲しい人はスーパーで買う。けど、うちのお客さんは違う。畑を残す意義や農家さんとの繋がりをひっくるめて”価値”と考えてくれる人がうちのお客さんなんだ」。

ーーー『何を』売るかではなく、『誰に』売るかが大事ーーー

それに気が付いてからアキコさんの不安は消えた。


視線は未来に

 

   『7-mira(ナナミラ)』は、アキコさんの農ビジネスの屋号だ。

   「重大な決定は7世代先のことを考えてから決める」というネイティブアメリカンの教えからアイデアをもらった。地域はそこに住む人が協力して守っていくもの。生産者も消費者も同じ未来を見て今を選択して欲しい、というアキコさんの願いが込められている。

   思いを共有するためには畑に来てもらうのが一番、とアキコさんは言う。

「一緒に手を動かして汗をかいてみんなで美味しい野菜を食べる。それだけで人は強く繋がり合えるんです。作り手と買い手が思いやりで繋がっている循環する地域を作りたい」

――― 夢を語るアキコさんの視線は7世代未来へ向いていた。


文: 荻野美鈴

7mira facebook 7-mira 

HP準備中

walker47 稲城版もみてね!

presented by 「稲城はたらくママの会」

we love Inagi

子ども習い事

ママサークル

遊ぶ

住む